受胎告知(11)天使の回答2


天使ガブリエルはマリアのためにもう一つ驚くべき出来事を告げます。

Marie Bebådelse - Hallwylska museet - 89006.tif
By Salomon Koninck (Konstnär, 1609-1656) Amsterdam, NederlandJens Mohr –  LSH 89006 (hm_dig3552), Public Domain, Link

καὶ ἰδοὺ Ἐλισάβετ ἡ συγγενίς σου καὶ αὐτὴ συνείληφεν υἱὸν ἐν γήρει αὐτῆς, καὶ οὗτος μὴν ἕκτος ἐστὶν αὐτῇ τῇ καλουμένῃ στείρᾳ· (Lc 1:36)

Et ecce Elisabeth cognata tua et ipsa concepit filium in senecta sua et hic mensis est sextus illi quae vocatur sterilis,

そして見なさい、あなたの親類であるエリザベト自身もまたその老齢において息子を授かった、そして不妊の女と呼ばれる彼女に対してその月は六番目を数えている。

ギリシア語のἰδού、ラテン語のecceは相手に注意をうながす間投詞です。συγγενίςはσυγγενήςまたはσυγγενεύςの別表記のようです。これはσυν-「一緒に」と動詞γίγνομαι「生まれる」に由来する-γενήςの部分「生まれた者」の複合語で「親類」を意味します。ラテン語のcognataもco + (g)nataで同じ構成の複合語です。

συνείληφενはσυλλαμβάνω「子を授かる」の完了です。この単語は1:31でσυλλήμψῃ「子を授かるだろう」というマリアに対して使われた動詞と時制違いのものです。γήρειは表記に揺れがありますがγήρᾳとも表記される与格の単語で主格はγῆραςまたはγῆρος「年を取っていること」 です。ἐν γήρει αὐτῆςで「彼女の老齢において」の意味になります。

οὗτος μὴν ἕκτος ἐστὶνは複数の解釈があり、οὗτοςを主語とする場合は「それは六番目の月である」となりますし、οὗτος μὴνを主語とすれば「その月は六番目である」となります。

καλουμένῃはκαλέωの現在分詞の受動態与格女性単数でエリザベトが「呼ばれている」ことを意味します。ラテン語ではquae vocatur と関係節になっています。そして呼ばれた内容はστείρᾳはστεῖρα「不妊の女性」の与格で示されます。sterilisは「不妊の」を意味する形容詞で関係節の中で主語の補語となっているため主格のままです。

αὐτῇもilliも与格ですがこれらは「所有の与格」として解釈することができます。ここでは与格本来の「対して」という言葉を使ってギリシア語文の構成を残して訳しました。

参考までに現代語訳を見てみます。フランス語LSでは

celle qui était appelée stérile est dans son sixième mois.

「不妊の女と呼ばれていた彼女はその六ヶ月目に入っている」となり構文は変えられています。忠実に訳すのであれば

c’est le sixième mois à elle qui est appelée stérile.

のようになるでしょう。英語KJVでは

this is the sixth month with her, who was called barren.

とあり”with”の訳が難しいのですが「それは不妊の女と呼ばれていた彼女を伴っての六番目の月である」とありLSよりは忠実に訳しています。

またフランス語と英語で「不妊の女と呼ばれていた」と過去形で表現されているのにギリシア語とラテン語では「不妊の女と呼ばれている」と現在形になっています。子供を授かって6ヶ月たった時点ですでに「不妊」は解消されているのですから「呼ばれていた」と過去形で言えるのは確かです。一方で「不妊と呼ばれている」という現在形の表現は「エリザベトの受胎」を確認していないマリアの認識に近く、天使が彼女の認識に合わせた表現をしていることを伺わせます。

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