ヨハネによるロゴス(3)言葉を通して生じるもの


ヨハネは言葉についての記述を続けます。El Greco 034.jpg
福音記者ヨハネ By El Greco and workshop – [2], Public Domain, Link

πάντα δι’ αὐτοῦ ἐγένετο, καὶ χωρὶς αὐτοῦ ἐγένετο οὐδὲ ἕν ὃ γέγονεν (Io 1:3)

Omnia per ipsum facta sunt, et sine ipso factum est nihil, quod factum est;

すべてのものはそれを通じて生じ、そしてそれを離れては何一つとして生じるものはなかった;

καίによって2つの主節が連結しています。

前半の主節の主語はπάνταでπᾶς「すべて」の主格中性複数です。動詞はἐγένετοでγίγνομαι「成る」のアオリスト三人称単数です。ギリシア語では主語が複数で中性の場合は動詞は三人称複数ではなく三人称単数になります。中性名詞が表すものは抽象的なものであることが多く中性複数は集合名詞として認識されるため動詞が単数になるようです。ラテン語ではこの現象は起こりません。πάντα ἐγένετοは「すべては生じた」と訳せます。

διά + 属格は「〜を通じて」の意味があり、属格αὐτοῦは前節まで主題となっていたλόγος「言葉」を指します。

後半の主語はεἷς「一つ」の中性単数 ἕνで関係節 ὃ γέγονεν「生じた」が掛かっています。またοὐδέとἕνは連結するとοὑδέν「何一つも〜ない」を意味する否定の代名詞になりますので、οὐδέ ἕν ὃ γέγονενは「生じたものは何一つも〜ない」の意味になります。動詞は前半のものと同じἐγένετοが使われ、 ἐγένετο οὐδὲ ἕν ὃ γέγονενは直訳すると「生じたものは何一つ生じなかった」となります。しかしこれでは冗長なので関係節は省略して「何一つとして生じなかった」とします。前置詞χωρίςは属格を伴って「〜から離れて」の意味になります。χωρὶς αὐτοῦは「それから離れて」と訳せます。こちらのαὐτοῦも同様にλόγος「言葉」を指します。ラテン語のsineは奪格支配の前置詞で「〜なしに」という意味です。

この2つの文は同じ命題の別な表現になっています。

  • すべてのものは生じる、それは「言葉」を通じているため
  • 生じるものはなにもない、それは「言葉」から離れているため

前節までは同じ言葉の反復がありましたが、ここでは違う表現による同じ命題の反復となっています。

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