イエスの誕生(1)人口調査1


イエスの誕生についてはルカによる福音書に詳しく記述があります。イエスの誕生のことはフランス語でNativité、英語ではNativity (of Jesus)と呼ばれます。

Pieter Brueghel the Elder ベツレヘムの人口調査

Ἐγένετο δὲ ἐν ταῖς ἡμέραις ἐκείναις ἐξῆλθεν δόγμα παρὰ Καίσαρος Αὐγούστου ἀπογράφεσθαι πᾶσαν τὴν οἰκουμένην. (Lc 2:1)

factum est autem, in diebus illis exiit edictum a Caesare Augusto, ut describeretur universus orbis.

そして次のような出来事が起こった、そのころすべての居住地が人口調査されるようにという布告が皇帝アウグストゥスにより出されたのであった。

Ἐγένετο δέまでが前半、それ以降が後半となる2つの文で構成されています。接続詞はありません。

前半の動詞 ἐγένετοは γίγνομαιのアオリストで「〜があった」という表現になります。丁度昔話の「昔々あるところに〜があった」という表現に相当します。主語はなく、後半の出来事を指しているため訳には「次のような出来事」と補完しておきます。

ἐν ταῖς ἡμέραιςは「日々のなかで」という意味で ἐκείναις「その」「以前の話とは別の」という意味の代名形容詞が付きます。ἐν ταῖς ἡμέραις ἐκείναιςは「そのころ」と簡単に訳してしまってよいと思われます。

後半の動詞は ἐξῆλθενはἐξέρχομαι「外にでる」のアオリストで、主語は δόγμα「意見」「(権力者による)布告」です。前置詞παρά + 属格で行為者を表し、ここでは Καίσαρος Αὐγούστου「皇帝アウグストゥス」が属格で続きます。

布告の内容は不定詞句で表現されています。動詞はἀπογράφω「書き出す」のアオリスト受動不定詞、主語はπᾶσαν τὴν οἰκουμένην「居住地のすべて」となります。ラテン語では目的を意味する接続詞 utから始まる従属節で表現されています。describereturはdescribo「書き出す」の接続法未完了受動態です。

ἀπογράφωは、ἀπο-「離れて」γράφω「書く」の複合語、describoも同様にde-「離れて」scribo「書く」の複合語で、「書き出す」「描き出す」などの他に「人口調査をする」という意味もあるようです。同じ語根の名詞 ἀπογραφὴ はそのまま「人口調査」の意味になります。フランス語LSでは名詞 un recensement「人口調査」が、英語KJVではshould be taxed「課税されるべきである」が訳に使われています。KJVの表現は人口調査は課税目的であるとの読み方によるものでしょう。

アウグストゥスはローマの初代皇帝で紀元前27年から紀元14年までの長い間その座についています。その間にローマの全人口の調査が行われた記録が公式にはなく(ローマの市民権を持つ人のみ対象のものはあった)、次節にも出てくるユダヤ属州の総督 Publius Sulpicius Quiriniusによる人口調査は紀元6年と記録されています。ところがヘロデ大王が没するのが紀元前4年なので彼による幼児虐殺やそれに端を発するヨセフのエジプト逃亡はその年より前であり、イエスの誕生は更に前である必要があります。このことからイエスの生誕年を特定するのは困難であると言われています。

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