人口調査について説明が続きます。
αὕτη ἀπογραφὴ πρώτη ἐγένετο ἡγεμονεύοντος τῆς Συρίας Κυρηνίου. (Lc 2:2)
Haec descriptio prima facta est praeside Syriae Quirino.
この人口調査はクゥイリーヌスがシリアの総督であったときに最初に行われた。
ἀπογραφήは「登録」「一覧」の他に「人口調査」の意味を持つ単語です。πρώτηは形容詞πρῶτος「最初の」の女性単数でἀπογραφήに一致します。ἐγένετοはγίγνομαιのアオリストで「起こった」、ここでは「行われた」と訳して良いでしょう。
αὕτη ἀπογραφὴ πρώτη ἐγένετοで「この最初の人口調査は行われた」となります。πρώτηを副詞的に使い「この人口調査は最初に行われた」としても良いでしょう。
ἡγεμονεύοντος以下は絶対属格で主節の動作の時間を表します。主語は人名の属格 Κυρηνίου「クゥイリーヌス」、補語は ἡγεμονεύω「導く」の現在分詞属格男性単数 ἡγεμονεύοντοςです。意味は「導いている者」「指導者」ですが、実際の役職名は「総督代理」あるいは「総督」なので訳にも反映させます。τῆς Συρίαςは属格で「シリアの」を意味します。動詞は省略されていますがεἰμί 「〜である」を補って訳します。
ラテン語の場合、ギリシア語の絶対属格に当たる構文、絶対奪格が使われています。補語 praesideはpraesesの属格単数で Quirinoが主語になります。このpraesesの元になっている動詞praesideoは「保護する」などの意味がありますがprae-「前に」とsedeo「座る」からできています。英語のpresidentの由来の言葉ですし、「議長」「委員長」などを意味するchairmanは同じ発想で作られた英単語でしょう。
クゥイリーヌスがシリアの総督の任についていたのは紀元6年から12年までとされています。また人口調査も紀元6年に行われたものしか知られていません。イエスの誕生後も生きているはずのヘロデ大王は紀元前4年に没しています。このためルカによるこの記述にはなにか誤りがあるのではないかと指摘する歴史家もいます。