ルカによる福音書のイエスの誕生には羊飼いたちが登場します。天使による羊飼いたちへのイエスの誕生の告知はフランス語でAnnonce aux bergers、英語ではAnnunciation to the shepherdsと呼ばれています。
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Καὶ ποιμένες ἦσαν ἐν τῇ χώρᾳ τῇ αὐτῇ ἀγραυλοῦντες καὶ φυλάσσοντες φυλακὰς τῆς νυκτὸς ἐπὶ τὴν ποίμνην αὐτῶν. (Lc 2:8)
Et pastores erant in regione eadem vigilantes et custodientes vigilias noctis supra gregem suum.
羊飼いたちもまた同じ土地にいた、野に暮らしながら、そして彼らの羊の群れに対して夜の見張りをしながら。
主語は ποιμένεςで ποιμήν「羊飼い」の複数形、動詞はεἰμί「いる」「〜である」の三人称複数未完了 ἦσανです。彼らのいた場所はἐν + 与格で示されχώρα「場所」「土地」「地域」の与格単数が続いています。αὐτῇは「それ自身の」の意味ですが、前節のイエスの誕生と同じ地域であることが示しているため「同じ」で訳します。ἐν τῇ χώρᾳ τῇ αὐτῇは「同じ土地において」と訳すことができます。
ギリシア語のκαίとラテン語のetはともに接続詞「そして」としても、副詞「〜もまた」としても使われます。ここではイエスの誕生の土地と同じ場所にいるという意味で副詞として「羊飼いたち」に掛けて「羊飼いたちもまた」と訳します。
2つの分詞が主語を修飾しています。一つは ἀγραυλέω「屋外で生活する」の現在分詞 ἀγραυλοῦντες、もう一つは φυλάσσω「見張る」の現在分詞 ἀγραυλοῦντεςです。ἀγραυλέωは自動詞ですがφυλάσσωは他動詞なので目的語を対格で取り、それは続くφυλακή「見張り」の対格複数 φυλακάςです。ここでも同じ由来の単語が続きそのまま訳すと「見張りを見張る」となってしまいますが次のνύξ「夜」の属格νυκτόςを伴って「夜の見張りをする」と訳して良いでしょう。
ἐπί + 対格で「〜の上に」「〜に向けて」を意味しますがここでは見張る対象を表します。続くのはποίμνη「群れ」の対格ποίμνηνで属格複数 αὐτῶν「彼らの」で修飾されています。
ラテン語文もほぼギリシア語文に沿っていますが分詞が少し異なっています。vigilantesはviglio「見張る」の現在分詞で、custodientesは custodio「守る」の現在分詞で、ともに主格男性複数です。viglioは自動詞でも他動詞にもなりえますが custodioは他動詞のため必ず目的語を必要とします。ここでの目的語は vigila「見張り」「寝ずの番」の対格 vigiliasです。配置は異なりますが、こちらも vigilantesと vigiliasという同じ由来の単語が使われているのを確認できます。このvigilaはフランス語のvigileやveille、英語のvigilやvigilanceなどの由来になります。