イエスの誕生(14)栄光と平和


天の軍隊は次のようにいいます。

Saenredam Annunciation to the shepherds.jpg
By Jan Saenredamcyfrowe.mnw.art.pl, Public Domain, Link

δόξα ἐν ὑψίστοις θεῷ καὶ ἐπὶ γῆς εἰρήνη ἐν ἀνθρώποις εὐδοκίας. (Lc 2:14)

« Gloria in altissimis Deo, et super terram pax in hominibus bonae voluntatis ».

「最も高い場所における神の栄光よ、そして地の上での良い意思の人々のうちの平和よ。」

この文には動詞がありません。考えられるのは2つの名詞 δόξα「栄光」と εἰρήνη「平和」が主格であり主語であると想定し省略されたであろう動詞ἐστι「〜である」「〜がある」を補うケース、またはこれら2つの名詞が呼格であり文全体が呼びかけとなっているケースです。ラテン語でも2つの名詞gloriaとpaxがあり動詞がないという状況は同じです。今まで前者のケースの場合ラテン語文では動詞 estが補われていることが多かったのでここでは後者のケースと考えます。全体の文章は「〜よ」という呼びかけの形にします。

最初のδόξαにはἐν + 与格で場所が示されここでは形容詞 ὕψιστος「最も高い」の与格複数ὑψίστοιςが続きます。このὕψιστοςは副詞ὕψι「上で」の最上級の形になっていてます。修飾する名詞がない場合形容詞は実体化するので、ἐν ὕψιστοςは「最も高いところで」と訳します。続いてθεός「神」の与格単数はδόξαに掛かり「神に対して」または「神の」の意味となります。与格はしばしば所有の意味を表します。

καί「そして」を挟んで後半の名詞εἰρήνηには2つの前置詞が掛かります。最初はἐπί + 属格「〜の上で」でγῆ「大地」の属格単数γῆςが続きます。次はἐν + 与格「〜のなかに」でἄνθρωπος「人間」の与格複数 ἀνθρώποιςが続きます。ἀνθρώποιςはさらにεὐδοκία「良い意思」の属格 εὐδοκίαςで修飾されています。

εἰρήνηは旧約にも出てくる言葉で例えばイザヤ書には以下のようにあります。

εἰρήνην ἐπ‘ εἰρήνην τοῖς μακρὰν καὶ τοῖς ἐγγυς οὖσιν (Is 57:19)

pacem pacem ei qui longe est et qui prope

遠くにいる者たち、近くにいる者たちへ、平和の上への平和を

またルカによる福音書の後半でもこのδόξαやεἰρήνηは出てきます。

ἐν οὐρανῷ εἰρήνη καὶ δόξα ἐν ὑψίστοις (Lc 19:38)

Pax in caelo, et gloria in excelsis!

天における平和、そして最も高きところにおける栄光よ

このような「栄光と平和」のモチーフはキリスト教での文脈でしばしば見ることができます。

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