パウロの新約(6)新しい契約と私たち


いよいよ「新約」という言葉が出て来る箇所にきました。

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By Bartolomeo MontagnaEwEzl9zb0cohpg at Google Cultural Institute maximum zoom level, Public Domain, Link

ὃς καὶ ἱκάνωσεν ἡμᾶς διακόνους καινῆς διαθήκης, οὐ γράμματος ἀλλὰ πνεύματος· τὸ γὰρ γράμμα ἀποκτέννει, τὸ δὲ πνεῦμα ζῳοποιεῖ. (2 Cor 3:6)

qui et idoneos nos fecit ministros Novi Testamenti, non litterae sed Spiritus: littera enim occidit, Spiritus autem vivificat.

そしてその神は私たちを新しい契約の適切な下僕となるように施した、文字のではなく聖霊の下僕となるように:というのも文字は私たちを滅ぼす一方で聖霊は私たちを活かす。

ὅςは主格男性単数の関係代名詞で前節のτοῦ θεοῦに掛かっています。古典語では関係代名詞は頻繁に使われ現代語に直訳すると長い文章になってしまいます。ここではその先行詞が前節になっていて文意を損なわないために先行詞を主格にした ὁ θεοςで ὅςを置き換え訳しました。古典語から現代語の翻訳にはしばしばこの手法が使われているのが見受けられます。

動詞 ἱκάνωσενは ἱκανόω「適切に作る」「資格を与える」のアオリスト時制でその目的語は2つの対格で示されます。一つめは対格 ἡμᾶς「私たち」、次はδιάκονος「使用人」「下僕」の対格複数 διακόνουςです。ここまでで「神は私たちを適切な下僕になるように施した」という意味になります。διάκονοςには属格καινῆς διαθήκηςで補足があります。この言葉が今回探し求めていたκαινὴ διαθήκη「新しい契約」です。ラテン語でもNovum Testamentumの属格 Novi Testamentiが使われています。版によっては小文字で書かれている場合もあります。

動詞ἱκανόωは能動態ですがこの中動態が前節で出てきた動詞 ἱκνέομαι「適切である」で前節から同じ語幹を持つ言葉が繰り返し使われています。ラテン語では前節sufficientes、sufficientiaと同じ単語でしたがここではidoneosという別の由来の言葉が使われています。

次に新しい契約の補足が同格である属格でしめされます。οὐ A ἀλλὰ B は「AでなくB」の表現でAはγράμμα「文字」の属格 γράμματος、Bはπνεῦμα「聖霊」の属格 πνεύματοςです。ここに新しい契約の性質が端的に述べられています。

さらにその2つについての説明が続きます。ἀποκτέννειはἀποκτέννω 「殺す」「滅ぼす」の三人称単数現在でἀποκείνωの表記が一般的です。ζῳοποιεῖはζωποιέωまたはζῳποιέω 「活かす」の三人称単数現在です。この2つは他動詞ですが目的語が省略されています。おそらくἡμᾶςまたは一般的に「人」と解釈してよいと思います。

ここで言う文字とはユダヤ教で重要とされる書物のことと考えられます。これらの書物を軽んじているわけではなく心の問題を置き去りにしてただ従えばよいわけではない、とパウロは言っていると読むことができます。

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