ニューハーフのMさんを訪ねて

グーテンターク、サクラです。

前回の記事からまた時間が開いてしまいました。今日はかつての知り合いであるニューハーフのMさんを訪ねたお話をします。

以前の記事でホルモン注射の開始について書きました。今から13年前のことです。

ホルモン療法の経過:10ヶ月目

このころの私の性に関する知識、とくにマイノリティに属する性の知識は大変貧弱で、自分をどう捉えてよいかもわからないような暗中模索の日々が続いていました。このときにいろいろなことを教えてもらったのがニューハーフのMさんです。私が友人とたまたま寄った歌舞伎町の店で知り合ったのでした。まだコマ劇場のあったころです。

彼女はすぐに私の状況を理解し、錠剤によるホルモン摂取より注射によるホルモン摂取のほうが体に負担がかからないことや、ちょっとの診断ですぐに注射をしてくれる医院のことも教えてくれました。私の歩みのうちの大きな一歩、決して後戻りすることのない一歩は彼女に手を引いてもらったのでした。

しばらく連絡はとっていたのですが、お店がなくなってしまいその後の消息は知らないままでした。そのまま何年も経ってしまいましたが、去年の暮にふと覗いた歌舞伎町のニューハーフクラブのHPでMさんがキャストとして在籍しているのを見つけました。

Covid-19による全国的な営業自粛と、その後の歌舞伎町の感染報告を考えるとお店を訪ねることは安全とは思えませんでしたが、結構することにしました。というのもMさんは私より10歳くらい年上で、そろそろ引退も考えられる年齢であるので、今のタイミングを逃すともう会えない気がしたのです。

お店はすぐ見つかり、Mさんにもすぐに会えました。お店のママの誕生日とかで人は多めでしたが、やはり密をさける対策はされていました。Mさんはすぐに私のことを思い出して、当時の悩みも思い出してくれました。今となっては私も思い出すのが大変なくらい昔の悩みです。

私が膣なしのSRSを受けた話もしました。Mさんは当時の私が将来こうなるであろうと想像していたイメージと今の私がそれほど変わっていないと言っていました。トランスジェンダーのジェンダー関連を除くと、人ってあまり変わらないのかもしれません。

Mさんはいまだにアリアリのままでしたが、お店のキャストの中にもSRSを受けた人はいて、多くはタイで膣ありの手術をしているそうです。もちろん手術しない人や、玉だけ取る人も多くいるようですが、一旦SRSをするとなると膣なしより膣ありで受ける人のほうが多いようでした。

お店は相変わらず盛り上がっていましたが、私は連絡先だけ交換して、早々に引き上げることにしました。Mさんに今の自分に繋がるアドバイスをもらったことに感謝の気持ちを伝えることができたので、私の今回のミッションは完了したと言えます。

Mさんありがとう。

検診のこと

Valete ! サクラです。

今日は検診に行った話をします。

正直なところ30代なかばまでは自分の健康についてあまり気にしたことがありませんでした。しかし、子育てするようになると自分があと何年間は健康であり続けなければならないと気づきます。下の娘が大学を出る頃までと考えると50代半ばまでは健康で働かなくてはならないことになります。

そして女性化が本格的に始まったのも30代なかばです。当時のわたしはその後の20年の自分のあり方を決めるに際して、今の私に至る道を選択したのでした。それは健康であり続け、子供とともに生活を営める道でした。

自分の住んでいる自治体からは毎年健康診断やがん検診の案内が送られてきます。しかし私は長いあいだそれを受けたことはありません。女性へ移行中である私にとって、それは多くの面倒なことの一つだったからです。男性か女性のどちらかであればできることが性の移行中の者にとっては不可能であったり、骨の折れることであったりすることは多々あります。私は幼虫から成虫に大きく変わる虫がなぜ蛹という活動をしない期間を持つのか理解できるような気がしています。

私は去年初めて検診に行きました。それはSRSを終えた私が、それまでの女性に移行する過程で失った世界を取り戻す一連の行為の一つでした。受付の方は私の性別欄と私の姿を見比べてから、女性更衣室の鍵を私に渡しました。その判断は、同じような状況の人がそれなりに来ていて対応に手慣れているのでは、と思わせるものでした。

不快な思いがなかったこともあって、今年も同様に検診に行きました。今回は一つ確認したいことがありました。それは「私が乳がん検診を受けられるか」ということです。

女性用トイレや銭湯やプールの更衣室など男性の目の届かないあらゆる場所で見られる2大広告といえば「DV被害の相談」と「乳がん検診のすすめ」でしょう。後者については大体こんな内容です。

乳がんは乳腺に発生する悪性腫瘍です。放置すると、がん細胞が増殖して乳腺の外へも広がっていきます。そして血管やリンパ管へ入って全身をめぐり、乳腺以外のさまざまな組織や臓器へ転移します。ここに乳がんの怖さがあります。

しかしその一方で、早期に治療を行えば約90%の方が治るといわれています。

乳がんから命を守るために、少しでも早く発見して治療を行うことがとても重要です。

胸がBカップを越えて大きくなってくると、こういう情報を見ていながら検診を受けてないことがなんだか恐ろしく感じるようになります。

今回検診に行くときに、私は胸が開いている服装ででかけました。受付で「性別は男性であるけれど胸があるので乳がん検診は受けられないか」と聞いたら「少し相談するのであとで受付によって欲しい」と言われました。

検診を終えて受付にいくと、豊胸手術で胸が大きくなっているわけではないことを確認された上で「男性に対しては保険での検診はできない」といわれました。そしてマンモグラフィーやエコーの検診のできる病院を紹介されました。しこりを感じるようであれば保険診療になるかもしれないが、そうでない限り基本的には自費診療になるとのことでした。自費だとマンモグラフィーは5000円くらい、エコーも合わせると1万円超えるくらいだそうです。

制度上このくらいが戸籍上の男性にできうる限度なのだろうと私は理解しました。男性の乳がん罹患率は女性の100分の1以下と言われています。とくに乳がん検診は必要ないであろうと考えられる男性のカテゴリに私が分類されている以上、仕方がありません。

お金を払えばいつでも検診が受けられるということがわかった時点でゆっくり考えることにしました。あるいは戸籍を女性に変更したら自動的に乳がん検診の案内が送られてくるでしょうから、特に異変を感じない限りはそれを待つのもありかもしれません。

戸籍が女性になると検診には乳がん検診の他に子宮頸がん検診も受けられるようになりますが、こちらは事情を話してお断りすることになるでしょう。私には子宮がないので検査のしようがありません。

SRSから24ヶ月経過

Ça va ! サクラです。

SRSから2年が経過しました。

もう何度も書いていることですが、身体記憶というものは常に書き換えられるもので、昔の身体記憶を呼び起こすということは不可能に近いと思います。「私の陰茎」というものは、そもそも最初から存在せず、未来永劫存在し得ないもののように思われるのです。私にとってそれはすでにUMAとかUFOとかの仲間になっています。過去に存在していたのであれば写真を撮っておけばよかったかな、とふと思うこともありますが、単なる悪趣味でしかなく、まったくもって撮らなくて正解だったでしょう。

前に職場での性の取り扱いについて書きました。

職場での性の取り扱いについて

Covid-19騒ぎで内規の整備が遅れてしまい、7月1日にようやく職場で女性として認められることになりました。オフィスはビルの一階を専有していて、「だれでもトイレ」もないため、以前のわたしは男性トイレを使うしかありませんでした。ただ個室は一つしかありませんでした。自粛要請前には15人程度の男性が常勤だったため個室はかなり高い確率でふさがっていました。

通常の男性にとって小用であれば小便器を使えばいいのですから、個室が一つでそれほど困ることはないでしょう。しかし私は常に個室を必要とするわけですから、話は違います。そんなわけでしょっちゅう近くのコンビニや隣の雑居ビルのトイレを使うなどしていたわけです。大勢が参加する会議なんかは個室が空いている可能性が高いので狙い目です。会議中に中座してトイレに行くなんて言うこともありました。

しかしよく考えてみると、これは誠実な勤務態度とは言えません。やはり参加が要請されている会議であれば、中座などせず最後まで参加するべきです。トイレは会議の前後に済ませておくべきでしょう、それが可能であれば。こういったことが性の取り扱い変更を要請する根拠となっていったのです。

四半期の変わり目だったこともあり7月1日の社内広報の最後にこんなお知らせが掲載されました。

一人ひとりが他者の多様性を尊重し行動することが求められるようになってきた現状を鑑み、以下内規として運用を始めます。

「役員、従業員および派遣社員などが自認する性別が戸籍・住民票などの公的書類で確認できる性別と異なる場合、会社は医師による診断書・証明書などにより本人の自認する性を確認できた場合、本人の自認する性を認め取り扱うこととする。」

以前企画されていた一泊の研修旅行も当面延期となっているようですし、単にトイレの問題が片付いただけとも言えますが、私にとってはアームストロング船長の一歩なみに大きな一歩に思えます。というのも今までは自分の自認する性について、常に自分が社会に対して妥協し続けていたのですが、今回は社会のほうが私に妥協したことになるからです。まさに別の天体に足跡を残したと言えるでしょう。

SRSから2年目のを迎える私への贈り物としては十分すぎるサプライズだと思います。というのも2年前の自分、このブログを始めた頃の自分はこのことは期待してなかったのですから。

 

戦争のそなえ

ボンジョルノ・ア・トゥッティ! サクラです。

今日はCovid-19とそれに続く非常事態宣言と私の近況について、トランスジェンダーの文脈も絡めてお話したいと思います。

非常事態宣言がでるちょっと前から、自分の活動圏内で感染者が出たりなど、だんだんと行動が制限されることが増えていました。外出自粛となった後も私は仕事の都合でオフィスに自転車で通っていました、街のどこで病に倒れるかも予測できない状況は、もしかしたら戦時の空襲下の恐怖と似ているのではないかと思いました。

私がSRSを受けたのが2年前の6月です。2年前のこの時期はもうホルモン療法を中止し、手術の最終準備段階に突入していました。仮にこの予定を後ろ倒ししていたら、例えば今年の6月に予定したとしたら、SRSは中止、少なくとも延期されていたでしょう。

足掛け10年にも渡るトランスジェンダーな生活の中でSRSをいつ行うかは、私の中で重要な検討事項の一つでした。小さい娘たちの世話をしなければならないことや、経済的な事情、仕事に就ける機会などを考えると、SRSを実現するピースがずっと揃わなかったのでした。

2年前の年明けに年の目標を定めようと思ったときに、このSRSのピースのすべてが揃いかけていることに気づきました。全てが完全に嵌るわけではありませんでしたが、結果として私のSRS計画は完遂することができました。

自分の直面する課題を後ろ倒しにすることはよくあると思います。直面する課題が大きければ大きいほどそれと向き合うには精神力が必要です。しかし、ある時点での状況が将来にわたって継続するとは限りません。値ごろな買値の株も明日には暴騰して手が届かなくなるかもしれません。(もちろん暴落することだってあります。)

「今日できることを明日に延ばすな(Never put off till tomorrow what you can do today)」というのはアメリカのある大統領の言葉(あるいはアメリカのある作家の言葉)だそうですが、私は以下の言葉もあわせて挙げたいと思います。

Si vis pacem, para bellum

ラテン語の格言で直訳すると「もし君が平和を欲するのであれば、戦争(に対して自身)を準備しなさい」となります。いろいろな解釈があり、一般的な解釈は「平和を確立するのであれば強固な軍事力を用意しなさい」というものです。

しかし私はこのように解釈することもできると思います、「もし君が心の平和を欲するのであれば、いつ発現するかわからない戦争に匹敵するような非常事態にそなえ、可能な限りの準備をしなさい」と。

2年前の自身の決断で、その後の自分に心の平安がもたらされていることは疑いようがありません。術部もすっかり回復し、感覚も術部と周囲との境目の断絶は感じられず、あたかも生まれたときからこのような姿だったのではないかと信じるほどです。男性は今では私にとって完全に異性であり、日常で出会う多くの人が私を女性として扱います。

ただ、私はトランスジェンダーの傾向のある方に、何が何でもSRSを進めているわけではありません。

SRSで後悔しないために

自分の欲する「平和」がどのようなものであるかについては徹底的に考え抜く必要があります。自分のできることはその時々によって変化するため、常に何をするべきかも同様に考える必要があります。そしてその実現は一般に考えられるようなものとは全く別な方法でなされることだってありえるのです。

職場での性の取り扱いについて

こんにちはサクラです。

しばらく間があいてしまいました。今日は職場での私の性の取り扱いについて話をします。

今の職場では男性として仕事をしています。大きな会社の正社員や公務員であったりすれば、その所属する組織に掛け合って女性として扱ってもらうことも出来たかもしれません。しかし私のような請負という仕事は、職場の組織に属するわけではありません。契約上は戸籍の性別で仕事をすることになります。偽ることはできるかもしれませんが健康保険証を確認されることもあります。

また業務請負は期間労働になります。たとえ、ある場所で努力して女性の取り扱いの受けられたとしても、期間が終わればその取扱も終わってしまいます。

いろいろ面倒なので、私は男性で仕事をすることにしていました。男性として仕事に従事することについて私は特に耐えられないということはありません。野生の生物や昆虫たちは生き残るために擬態することもあるわけで、私だって生き残るために擬態をすることは吝かではないのです。実際のところ男性トイレを使うこと以外はそれほど問題はありません。

今の職場では契約の延長が続き、かれこれ2年近くいることになります。今までのなかでは長い方だと思います。

さて月曜から金曜まで、9時から18時までを定時とする会社ですが、あるとき一泊研修をする計画が持ち上がりました。社員でない私は当然それに参加することはないと思うでしょう。しかし会社にいる全員に参加して欲しいという社長の意向から、私にも参加の要請が来ました。会社のために良かれと思う社長の善意であることは疑う余地はありません。また契約の継続を望むのであればこのような要請は積極的に受けるべきではあります。

しかし私にとっては宿泊となるといろいろ支障が出てきます。研修の取りまとめをしている女性社員(すでに私のジェンダーのことは知っています)に相談しました。「現在のように男性として取り扱われている限り研修には参加できない」と伝えると、「なんとかしよう」ということになりました。

彼女は社長に私を女性として取り扱うことについて承諾を得てくれました。ただ「社長の独断でそれを行うという形は他の社員の手前取るべきではない」という役員の意見もあり、社内規定に修正をいれることになりました。ハラスメントのガイドラインのなかにトランスジェンダーの取り扱いの項目が追加されることになります。

また上記の彼女の呼びかけにより、女性社員だけの会合が開かれました。そこで、私がトランスジェンダーであり、性別の取り扱いの変更を望んでいることが伝えられ、私も同様の説明をしました。幸いなことに異議はでませんでした。

近日中、遅くとも研修前には私は職場で女性として扱われることになります。可能であれば今の職場には長くいたいと思っています。

とはいえ、なにかの理由でこれが実現されない場合もあり、記事にすることを躊躇していました。しかし、気づいてみると、前回の更新から随分間があいてしまっているので、このように現状報告をすることにしたわけです。