こんにちは、サクラです。
20年くらい前の本ですが『ブレンダと呼ばれた少年』というノンフィクションがあります。1970年代に赤ん坊の包茎手術で失敗して陰茎を損傷してしまった男の子ブルースが、女の子ブレンダとして育てられたという事件を追っています。
当時の医学界での性自認の考え方は「育ちが生まれに優る」というもので、医学博士ジョン・マネーが提唱していたものでした。生まれたときの脳はどちらのジェンダーに適応する可能性をもっているため、医者が恣意的に性別を決定すると子供はそれに従った性自認を持つようになるという、今から考えるととんでも説を展開しています。
もともとは半陰陽、両方の性の特徴をもって生まれてきたために性の判別の難しい新生児に対しての理論だったのですが、これがブルースのような陰茎の損傷以外は正常な男児に応用してしまったために悲劇が起こります。
実際ブルースは睾丸を除去され、名前を女性名のブレンダと変えられ、女の子として育てられ、将来的に造膣を含む女性器形成手術が予定されていました。しかし、男性として正常に生まれてきているため、この施術は家族との関係や学校生活で問題を起こすばかりで、10代後半でブレンダは自分の生い立ちを知ると男の子に戻ってしまいます。
詳細は省きますが、ここで性同一性障害的な観点で二つの点を挙げておきます。
一つはこの少年の体験したことはFtMに近いこと、性別を逆に考えるとMtFの私も共感できる点です。ブレンダはもともと男性で生まれてきたことは知らされていなかったので、精神的に置かれた状況はGIDのものと酷似しています。
実はわたしも医療関係の仕事をしていた父に「お前は生まれた時は女だったが、手術で男にした」とか「時々手入れのために夜中にお前を眠らせて改造している」などと言われたことが度々ありました。父はもう他界しているため、真実かどうかは確認する手段がないのですが、かなり恐ろしかったです。悪気はないのだろうと思うのですが度を越しています。ブレンダに対するマネー博士と同様に、40年ほど前の性に対する考え方はいろいろ雑だったのだと思います。
もう一つは彼も私も生物学的男性であったにもかかわらず、彼のほうは断固として女性器形成手術を拒否し続けた一方で、私はこれを進んで受けたことです。生物学的男性と一言でいってもさらに性自認のレベルでは多様であることがわかります。脳の視床下部という部位に特徴があると言われています。
私はSRSを受けるまでにいろいろな障害を越え、たくさんの段階を経たので、医者から女性器形成のための手術を受けろと半ば強制されることに拒否し続けたブレンダとはまったく違う苦労でした。
ブレンダは男性にもどりデヴィッドと名乗りました。この名前は巨人ゴリアテと戦うダヴィデに由来しています。子連れの女性と結婚もしていたのですが、自殺してしまったようです。離婚や家族の死、経済的な困難が重なったと言われていますが、ブレンダとしての受難が影響なかったとは言えないでしょう。
マネー博士のブレンダに対する施術は今の感覚から言うと雑で野蛮な対応としか言えません。一方で「性自認」Gender Identityという言葉を初めて使用したり、今に繋がるジェンダー論を世の中に広めたりもしていて、結果として性同一性障害の認知に貢献した人物とも言えます。
図書館でもすぐ見つかると思うので、機会があれば一読ください。
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