MtFの恋愛事情

こんにちは、サクラです。

今日は恋の話をしたいと思います。とはいえそこにいたる前段階の話がほとんどです。

一般にトランスジェンダーは自認する性に近づくような行動を取りますが、生物学的に完全に同一化することはできません。ホルモン療法による体つきや顔つきの変化や、SRSによる外性器の変更があっても、やはりどこかで生まれた時の性の由来を引き継ぐものです。

生物学的女性とトランスジェンダーのMtFが確実に異なるのは、例えば前者が出産を期待されることに対して、後者は全く期待できないことなどがあります。年齢が若くて将来、結婚をして子供が欲しいという男性にとってMtFは候補には入らないでしょう。またそこまで望まないとしても、多くの男性はそれなりの性生活を相手に期待することでしょう。こうしたことから恋愛の対象として考えたとき、両者は時には微妙に、時には劇的に違いを見せることでしょう。

以下詳しく説明する前に用語を補足しておきます。

シスジェンダー cisgenderとはトランスジェンダーと言う単語が出てくることによって生まれたレトロニムで、「生物学的性と同一性を保つ人」を意味します。レトロニム retronym とは新しい概念が出てきたとき、その派生元の既存の概念を特定するために作られる名称のことです。例えば携帯電話に対する「固定電話」、スマホにたいする「ガラケー」がこれに当たります。それぞれかつては「電話」、「携帯電話」と呼ばれていましたが、後発のものと区別するためにレトロニムを獲得したのです。

同様にホモセクシャルと言う概念の出現によって、ヘテロセクシャル(heterosexual 異性愛者)という既存の社会で典型的であった恋愛を示すレトロニムができたわけです。

シスジェンダーでヘテロセクシャルな男女間の恋愛であれば、体の仕様や相手に求める性について特に深い話をせずに関係を始めることができますが、トランスジェンダーであったりホモセクシャルであったりすると、そう簡単にはいきません。

例えば私のようなMtFの場合、自分が女性であること、またどのように女性であるかということ、恋愛対象として男性を愛するということなどが相手に理解されなくてはいけません。トランスジェンダーの中にはホルモン療法もSRSも行っていない人も含まれることを考えると、相手は私の体のあり方は多様な可能性を秘めたものに映ることでしょう。仮に性行為に至ったときに初めて、多くの予想外のことを知るという事態は避けたい、とおもうのが自然なことだと思います。

男性によるトランスジェンダーの体についての問いは、もしかしたら「最初から体が目的の行動」と映るかもしれません。でも、私はそうとは言い切れないと思っています。シスジェンダー女性は、女性の属性がすべて揃っていることが担保されているので、あえて聞かれないだけとも言えます。聞くこと自体が失礼であったりハラスメントと理解されることさえあるわけです。

すべてが標準仕様であれば気にしないことも、過不足があるようなカスタム仕様であれば、調べる必要があるでしょう。トランスジェンダーは存在論的にカスタム仕様だといえますし、そうであればその仕様を問われたとしても疑問を持つ側の配慮がないなどと一概に言い切れない面があります。

以下私がシスジェンダー男性から受けたことのある質問や要望を挙げます。ジェンダーに関する課題に触れたことのある人であれば笑ってしまうような質問であっても、その当人にとっては真面目で素朴な疑問であることに注意する必要があります。

  • 写真がみたい、顔と全身写真を送ってほしい
  • 陰茎や睾丸はあるのか?
  • 膣は作られているのか?
  • (膣がないのであれば)どこで性的感覚を得るのか?
  • 通常の女性のような性的絶頂はあるのか?
  • 性自認は男と女のどっちか?
  • 恋愛の相手は男と女のどっちか?

「答えるのも馬鹿らしい」などと言ってはいけません。自分の性と異性に関する知識の枠組み、いわば性の知識スキーマを、それなりに人は持っているものです。しかし性的マイノリティに関する問題に触れていない人は、MtFについての性の知識スキーマを獲得していない可能性があります。

シスジェンダーでヘテロセクシャルであることが期待される社会で、トランスジェンダーとして生きるには、ある種のタフさが必要です。あまり感情に流されずに一つ一つ疑問を解消する努力ができるとよいと思います。

外見の問題

「写真をみたい」というのは私がどちらの性別に属しているかを自分の目で確かめたいという要望です。ヘテロセクシャルの男性にとっては、自分が見ても、そしておそらく友人や周囲の人が見ても、私が女性に見えるということは確認しておきたいことでしょう。

私は今まで自分の写真を撮らないようにしていました。自分の容貌に自信がなかったですし、セルフイメージと違うものを直視するのは気が進まないことでした。でも、これを受けて写真を撮るようになりました。

この行為は私にとってもいい影響を与えていると思います。自分の今の外見をきちんと把握しておくことは実は大切なことです。とはいえ相手に送るのは、当然映りのよいものだけ選びます。普段から沢山撮っておけば備えになるのです。

外性器の問題

さすがに外性器の写真を要求されたことはありませんが、どうなっているのか知りたい言う気持ちは理解できます。特にヘテロセクシャル男性にとっては、相手の外性器が男性的であったら一大事です。陰茎や睾丸がないことは、是非担保しておきたい事柄でしょうし、その跡地がどうなっているかも当然気になります。

何度かこういうやり取りをするうちに「温泉に行くと女湯に入っている」とか「プールでは女性更衣室で着替えている」という事実を告げると、比較的スムーズな理解が得られることに気づきました。外性器の問題は、外見の問題の延長とも言えますが、異性の相手の確認を事前にすることができません。女湯や女性更衣室でパスしていることは「私が他の女性の目からみて違和感を持たれてない」ということの担保になるのです。

ただ膣の有無については、これでは担保できません。でも、このあたりまで女性であることが担保されると、仮に膣なしであっても、多くの男性は私のことを女性と認めるのに支障はなくなるようです。ただ性行為をどうするかという懸念は残るようですが。

「陰茎や睾丸がないこと」についての問い合わせは上記に挙げたもののうち必ず聞かれる質問です。これは再度強調しておきます。

性的感覚の問題

実際に性行為を行う際に、相手が求めている性に期待する振る舞いをするのかは懸念事項となります。多くの男性は自分が快楽を感じているときに相手の女性にも反応してほしいと期待するでしょう。

とくに膣なしの私に対しては他の女性と同じように快楽を得ることができる根拠が必要とされます。「膣なしで性的感覚が持てるのか」という疑問は、陰茎を快楽の根源と考える男性であれば自然な発想ともいえます。その点に関しては「性的感覚は膣だけで感じるものではない」「男性と女性では感じ方が違うのではないか」ということを指摘して納得してもらいます。

性自認や性指向の問題

私が自分をどちらの性と思っているか、私がどちらの性を恋愛の対象としているかについては、あまり問題になることがありません。というのもこれらは心の問題なので、シスジェンダーでもトランスジェンダーでも、ホモセクシャルでもヘテロセクシャルでも、本人の言ったことを信じるしかない点については違いがないからです。

まとめ

このような数多くの疑問が解消されて初めて、次の段階、相手に対する恋愛感情を自分の中に認めることができるわけです。正直なところ面倒な作業だとは思いますが、相手に対して誠実になろうとおもうのであればこれは仕方のないことです。

シスジェンダーでヘテロセクシャルな人が、説明なしで自分の性が認められているという点について、社会的特権を持っているという捉え方もあるようです。トランスジェンダーであったりホモセクシュアルであったりする人に対しての知識が、今の社会で共有されていない背景があるからです。

一方で私のようなトランスジェンダーが直面する課題が相手との間で解消されると、より深い絆ができるともいえます。これはシスジェンダーでヘテロセクシャルな男女の恋愛においても、「男と女だから」という無思考な決めつけを離れて、その枠組を捉えなおしながら関係を築くことができるのなら同様の恵みがあることが示唆されていないでしょうか?

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