こんにちは、サクラです。
みなさん、クマノミという魚を知っていますか? あのディズニーの映画に出ていたかわいい魚です。
By Ritiks – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
イソギンチャクと共生関係にあり普段はそこをコロニーとして暮らしてます。この魚は生殖の方法に特徴があります。コロニーの中で一番大きい個体がメス、次に大きい個体がオスとなり三番目以下の個体は生殖活動をしません。そして一番大きい個体が死ぬなどして群れからいなくなるとオスがメスに変化し、三番目の個体がオスとなります。このような性の在り方はsequential hermaphrodite、うまく訳すのが難しいですが「時間の経過に関係する両性具有」と呼ばれています。同時に両性の特質を持つわけではないけれど個体の一生を通して両方の性を体験するという在り方です。植物には多く見られますが動物では珍しいようです。
かつて私の家にはメスの妻とオスの私と二人の娘がいました。でも、あるとき妻はコロニーから立ち去り、成熟したメスがいない状態になりました。もちろん他の事情もあったとはいえ、私は真空となった空間を埋めるかのようにメスに変化したのでした。
幼い子供のいる家族に母親がいないのは致命的な状態です。一般論ですが、母子家庭は経済的に困窮することはありますが、そこさえ解決すると家族の情緒は安定する傾向があります。一方で父子家庭は経済的な問題に関係なく、その在り方、情緒の安定性が母子家庭に比べて脆いのです。哺乳類である私達の社会では子供の第一保護者がメスであることは大きな意味を持ちます。女性は家庭においては再生産を司るシャーマンでもあるのです。
私はオスでいた間、保育園から「母がいなくて(また祖母など周囲の女性の助けがなくて)どうやって子育てができるのか」というメッセージを間断なく受けました。私が自分でできると主張しても、保育園で使うシーツや巾着袋や手提げカバンを自作しても、お弁当にウサギリンゴやタコソーセージを並べても、型紙から娘の夏用のワンピースを作ってもその疑念は絶えることがありませんでした。女性の社会進出が奨励される一方で男性の家庭進出はまだ顧みられない時期でした。まだイクメンという言葉が出てくる前のことです。
私は引っ越しを期にクマノミのようにメスになりました。もちろん、このことを察した人はいるでしょう。まがりなりにもメスとなった後のほうが私達のコロニーとその周囲は安定しました。
人間はクマノミとは違い、生まれたときの性別のまま一生終える種族だと主張する人もいるでしょう。でも豊かで食べ物を選ぶことができる環境において人はベジタリアンとして生きることもできます。人間はそもそも雑食の動物だからそのような生き方は摂理に合わないという主張も彼らには多くのなかの一つの意見としてしか響かないでしょう。人は自分の在り方を自分で決めることができます、それが可能であるかぎり。私も「時間の経過に関係する両性具有」という自分の性の在り方を自分で決めたのです。私の知る限りそれは可能なことです。