性別の取り扱いの変更申立審判

Bom dia! サクラです。

以前申し立てを行った「性別の取扱いの変更」の審判が下りました。

審判が下ると審判の謄本が郵送されます。出廷することなく書類の手続だけで進む申立なので、書類の不備がない限り認められないことはないはずなのですが、開封するときには少々ドキドキするものです。内容はこのようなものでした。

令和4年(家)第****号 性別の取扱いの変更申立事件

審  判

本籍  ****
住所  ****

申立人 アマタ サクラ

昭和**年**月**日 生

主  文

1  申立人の性別の取り扱いを男から女に変更する。
2  手続費用は申立人の負担とする。

理  由

 本件記録によると、申立人は男性として出生したが、性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律2条に定義される性同一性障害者に当たり。また、同法3条1項各号のいずれにも該当すると認められる。

よって主文の通り審判する。

令和4年8月**日

**家庭裁判所

裁判官 ****

 

また送付状には以下のようなことが書かれていました。

裁判所から、本籍地の市区町村役場に対して戸籍記載嘱託の手続をします。手続が完了しましたらご連絡しますので、しばらくお待ち下さい(通常、2週間程度かかります)。

未成年の子がない状態でSRSを済ませる方は、SRSとこの性別変更が一続きのタスクになるのですが、私の場合は下の娘の成人を待つためSRS後4年が必要でした。正直なところ子供が成人した今ではなく、まだ彼女たちが小さいときに性別変更して子育てができたらよかったと思います。私の子育て経験から言うと「子無し要件」については再考の余地があるでしょう。

良い面を見るのであれば、この悲劇とも喜劇ともつかない独特な状況が子供たちも巻き込んでサクラ家に不思議な風合いを与えたのは事実でしょう。子育ての慌ただしさと自分の性の曖昧さに溺れそうになって一所懸命に藁を掴んでいた頃、今では失われてしまった密度の濃かった頃の思い出が私に一種のサウダージを感じさせるのです。

戸籍変更の照会

こんにちはサクラです。

今日は戸籍の性別の取り扱い変更の申立の進み具合についてお知らせします。

申立をしてしばらく経過しましたが、家庭裁判所から「照会」なる文書が送られてきました。審議をするにあたり、その申立内容に対して確認したいという趣旨のようです。内容は以下のようなものです。

1.性別の取扱いの変更は、あなたの真意によるものですか。
□自分の真意である。  □自分の真意でない。

自分の真意でなければそもそも申立などしないと思うのですが、そこは深く掘り下げず「自分の真意である。」にチェックを入れます。

2.あなたには現在、未成年の子がいますか。
□いない。 □いる。

戸籍も提出しているわけですから、わかるだろうと思うのですが、MtFであれば認知していない非嫡出子がいる可能性があります。その場合戸籍からは子供の存在がわからないということになります。ここで気づきましたが、性別変更の子無し要件というのは戸籍に記載されていない子供も判断材料にされる可能性があるということでしょうか。二人の娘は成人していますし、非嫡出子そのものが私の知る限りいないので「いない。」にチェックを入れます。

3.性別の変更が認められた場合、将来、再度の変更をする(性別を元に戻す)ことが難しいことを理解した上で、このまま手続きをすすめることを希望しますか。
□希望する。 □希望しない。

過去に、元に戻したいという方がいたため、安易に戻せないということの確認でしょう。世の中には「やってみないとわからない」という方法論も支持されてはいますが、その方法論でこの先に進むのはではないことの確認でしょう。私は帰還不能点をとっくに超えていて、その時点で戻るという可能性は捨てているので「希望します。」にチェックを入れます。

4.申立書に記載した内容について、変更、修正または追加したいことはありますか。
□ない。 □ある。

申立の書類に不足不備がないと聞いているので、その内容が私の真意と受け取ってもらって全く差し障りはありません。「ない。」にチェックを入れます。

返送期間は半月ほどの猶予があるようでしたが、私はすぐに同封された返信用封筒にいれ、宛名の「行」を「御中」に変更し、翌日送付しました。私にとっては不要な質問とも取れますが、情報処理で重大な変更をともなう操作の前にしばしば聞かれる「本当に実行して良いですか?」というダイアログのようなものではないかと理解しています。

また経過があるようでしたら報告しようと思います。

SRSから48ヶ月経過

こんにちは、サクラです。

今月でSRSから4年経過しました。現在の状況を少しだけお話します。

SRSの手術の日は私にとって「第二の人生の誕生日」であり「過去の性からの分離独立記念日」であり「私の陰茎の命日」でもあります。アラフィフの私にとって、もし物心ついた後を人生全体と考えたならば、4年という歳月は人生の1割近くに匹敵するでしょう。そしていろいろ変化の多い密度の濃い4年でした。

いろいろ書くべきことがあるとは思うのですが、この4年の変化としてまず頭に浮かぶのは「友人が増えた」ことです。理由を挙げればきりがないのですが、私自身が自分に満足しリラックスできるようになったことが、周囲に安心感を与え、よい関係を結ぶのに寄与したのだと思います。SRS以前のわたしのような極度に緊張したり、緊迫感に満ち、秘密主義を押し通す人と打ち解けるのは、なかなか難しいと思います。

手術後には男性ホルモンの分泌がなくなったせいか、体の女性化が急に進みました。「堰を切ったように」というのが適切な表現でしょう。世の中はLGBTに対する理解が進んだといっても、それは特定の集団、特定の場所においてであり、一般的には性別の二分化を要求される場面がまだまだ大多数といえます。その中で、希望の性の側によることは、安心であると同時に安全でもあります。

また、最近の記事で書いている通り、現在性別変更の申立の途中ですが、これが晴れて認められ戸籍の性別が変更されれば、私の性移行の旅はひとまず終わります。その後は私自身の性に関する手当をすることはなくなるでしょう。この経過についてはまた別の機会に書くことにします。

ただ周囲で性移行や性違和のことについて相談したいという人がいるようであれば、参考になるような話は継続して掲載したいと思っています。

失われた戸籍を求めて

こんにちは、サクラです。

今日は性別変更に必要な戸籍集めについてお話します。

性別の取り扱いの変更の申立に必要な書類の一つとして戸籍謄本が挙げられています。

申立人の出生時から現在までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)

私は一度結婚をして、娘が二人生まれ、離婚をしたあと現在に至っています。このような経歴の私にとって出生時から現在までに3つの戸籍を集める必要がありました。以下説明したいと思います。

日本人として生まれた人は出生すると父親か母親のどちらか筆頭者の戸籍に入籍します。入籍というのはよく使われる結婚の換喩だけではなく、自分の籍が誰かの戸籍に入ること全般を意味します。なのでいろいろなケースの入籍があるわけで、この場合「出生による入籍」となるわけです。そして、私の父親が筆頭者である戸籍が私の最初の戸籍になります。

さて、結婚をするときにはそのどちらか、夫か妻を筆頭者とする戸籍が作られます。もとからそのような戸籍がある場合(再婚の場合など)には新たに作るのではなくそれを使うようです。夫と妻とどちらを筆頭者とするかは、どちらの姓を名乗るかで決まります。夫の姓とするなら夫、妻の姓とするなら妻を筆頭者として戸籍が作られそこに二人が入籍します。この時点でもといた戸籍(従前戸籍)からは除籍されます。私と妻は私の姓を名乗ることにしたので、ここで私を筆頭者とする戸籍が新たに作られ、私と妻がそこに入籍しました。それと同時に、私は私の父の戸籍から、妻は妻の父の戸籍から除籍されています。最初は私と妻の二人でしたが、娘が生まれるとそれぞれこの戸籍に入籍しました。

私と妻はやがて離婚しました。離婚すると筆頭者ではないほうがその戸籍から除籍されます。除籍される側は、従前戸籍に戻っても新たに戸籍を作っても良いようです。私の妻の場合、妻の父が筆頭者である従前戸籍に戻ることもできましたが、すでに別居していた住所に新たに妻自分が筆頭者となる戸籍を作りました。

除籍される側が親権を持っている場合であっても、二人の間の子供は除籍されることはなく、出生時の戸籍に残り続けます。父が戸籍の筆頭者である場合、母が親権を持ち子供と暮らすことになっても、子供の籍は父の戸籍に残り、母と子供の姓は違ったままとなります。この場合改めて申立をして子供を母の戸籍に入籍させる必要があります。私達の場合は私が親権を持ち一緒に暮らしているので、子供たちは私の姓を名乗り続けることに特に問題はありませんでした。

さてここまでの流れを理解すると私の「出生時から現在までのすべての戸籍謄本」というと、私の父が筆頭者である出生時の戸籍と婚姻時に作成された現在の戸籍の二通の謄本があればよいと理解できるでしょう。しかし、申立時にこれでは不足があると言われました。なぜでしょうか?

戸籍というのは時々作り直されるもののようです。これを戸籍の改製といい、過去に数回に行われました。今までの戸籍に変更がない場合でも改製時に同じ内容のものを新たに作り直すのです。この改製時にまたがって存在した戸籍は、実際には改製前後の2つになってしまいます。最近は平成6年法務省令により戸籍の改製が行われました。といっても平成6年に即時に改製が行われるわけではなく、各自治体で時間差があったようです。結婚後に作られた私の戸籍は平成20年に改製されていたのでした。

私が籍を入れていた戸籍は、(1)父親が筆頭者である出生時の戸籍と、(2)婚姻のときに作成された私が筆頭者の戸籍、それと(3)改製された戸籍の3つの戸籍があったのでした。私は(2)の存在に気付かず(1)と(3)の二通を持っていったところ、(2)が抜けていると指摘されたのでした。

再度改製する前の戸籍「改製原戸籍」の謄本を入手し、すべてが揃ったことになりました。郵送でも戸籍の取得は出来るのですが、手違いや漏れを避けたいのと、早く入手したいという気持ちがあったため、わざわざ足を運んだのでした。戸籍を集めるのも意外と大変なものだと思いました。

親族が死亡したとき、同様に出生時からの戸籍を集める必要があるので、このような戸籍の基本は知っておいた損はありません。ご参考になればと思います。

自由・平等・姉妹愛

こんにちは、サクラです。

今回は、友人付き合いについての最近の思いについてお話します。

SRS以降、ここにいろいろ書き連ねたように私は女性としての生活を送っています。その中で特に同性である女性との付き合いが多くなりました。すごく深い付き合いをするわけではないものの、決して表面的なものではなく、会っている間はとても親密にいろいろなことを打ち明けたり助言をしたりされたりします。

私はふと男性であったときの友人を思い出します。特に親しかった(当時私から見て同性であった)男性の友人は今でも時々連絡をくれますが、今現在の私を見ているというよりは過去にその友人と過ごした時期の私を見ようとします。いつかは私がもとの男に戻ると半ば信じています。残念ながら過去と同一化することの難しい私は彼の話す過去の出来事に少々疎ましい印象を持ってしまいます。性移行を行わない二人の間であればそれは心地の良いものだったのでしょう。

現在の友人との会話において、大抵の話題は最新のものになります。上で述べた彼とは対照的に、彼女たちは私の今を受け入れてくれ、今起こっている現象に目を向けてくれます。これは私のような過去からの離脱を経験したものにとってはとても心地よいものです。おそらく私が今まで持ったことのない交友関係がここにあると思っています。そしてこのような交友関係のあり方も私が女性になることで起こった変化の一つだと思います。

さて、あるときフランスの標語である自由・平等・友愛の原文が目に留まりました。

Liberté, Égalité, Fraternité

liberté リベルテは英語のliberty、égalité エガリテはequalityと理解しやすいですが、最後のfraternité フラテルニテはfraternityあるいはbrotherhoodで、ラテン語のfrater「兄弟」に由来し、その原義は兄弟愛です。男女入り混じった集団を男性複数代名詞で表現するフランス語の慣用を考えれば、この言葉は男性同士ではなく、人間同士の絆と考えられるでしょう。実際のところフランス語辞書Larousseでの定義でも以下にある通り性別に対する言及はありません。

1. Lien de solidarité qui devrait unir tous les membres de la famille humaine ; sentiment de ce lien. (人間の家族の全構成員を団結させるべき連帯の絆、 この絆の感覚)
2. Lien qui existe entre les personnes appartenant à la même organisation, qui participent au même idéal. (同じ理想に参加する同じ組織に属する人々の間に存在する絆)

私は上で述べたような自分の新しい交友のありかたについて兄弟愛にならって姉妹愛と言えるのではないかとふと思いました。誰かを兄弟姉妹のように思う親密な絆への視点は女である私にあるからです。フランス語ではsororité ソロリテという、ラテン語のsoror「姉妹」に由来する単語があります。しかしフラテルニテとは違い女性限定の絆を意味します。上述のLarousseでの定義では随分と簡単なものでした。

Attitude de solidarité féminine. (女性的団結の態度)

私にとって結びつきの深いと思う相手は何も女性に限る必要はなく、私の意味するソロリテは究極的にはLarousseの定義するフラテルニテに似たものになるでしょう。フェミニズムの文脈で使われることもあるこの言葉ですが、トランスジェンダーMtFの文脈において体験される交友関係のあり方を表せないだろうかと思っています。