ジェニー・フィールズの世界

こんにちは、サクラです。

中学高校の時には読書が好きで、いろいろな本を読みました。その中で、ある小説に出てくる女性の生き方に非常に感銘を受け、影響を受けました。

アメリカ東海岸のジョン・アーヴィングという作家の作品に『ガープの世界』という小説があります。主人公ガープの母親、看護婦のジェニー・フィールズは第二次世界大戦中のボストンで息子を生みます。

彼女はセックスにもボーイフレンドにも興味がなく、女性に傲慢な態度で接する多くの男性と、そういった男性に依存するだけの女性に対して反感を持っています。彼女は夫はいらないと思う一方で、一人だけ子供を持ちたいと望みます。

It was, to her, the ideal situation: a mother alone with a new baby, the husband blown out of the sky over France. … An almost virgin birth. At least, no future peter treatment would be necessary.

彼女にとって、それは理想的な状況だった:新生児と母親だけ残され、夫はフランスの空の上で吹き飛ぶ。… ほとんど処女出産である。少なくとも将来的な陰茎の取扱いは必要でないだろう。

でも子供を生むためだけに生殖活動をともに営み、かつ後腐れのない男性を見つけるのは意外と難しいものでした。

“I wanted a job and I wanted to live alone. That made me a sexual suspect. Then I wanted a baby, but I didn’t want to have to share my body or my life to have one. That made me a sexual suspect too”

「私は仕事をして一人で生きたかった。それが私を性の容疑者にした。そこで私は赤ん坊をほしいと思った、しかしそのために自分の身体と生活を誰かと共有はしたくなかった。それもまた私を性の容疑者にした」

80年前の世界は今よりずっと保守的でした。

戦時中には、彼女の勤務するボストンの病院にも負傷兵が運ばれ、彼女もその看護に当たります。彼女は兵士たちを外傷を負ったもの、内臓を悪くしたもの、脳に障害を受け意識のないもの、そして助かる見込みのないものの4種類にカテゴリ分けしていました。

彼女の病院にあるときガープ軍曹という4種類すべてのカテゴリに該当する兵士が運ばれてきました。ただ彼の男性の機能は正常で始終勃起していました。彼に愛着を持ち、彼の負傷前の健康状態や軍歴が良いものと知ったジェニーは、彼を生殖相手に見定め、病院のベッドに寝ているだけのガープ軍曹に乗り妊娠を果たします。この小説の主人公ガープはこうして生まれ、彼の名前はガープ軍曹の名字から取られれました。ガープ軍曹は間もなく死に、ジェニー・フィールズとその息子ガープの物語がはじまります。

男子高校生の私は、妻はほしくない一方で子供だけ持ちたいと考えていたので、このジェニー・フィールズの生き方に強い共感を覚えました。しかし彼女と違い子宮のない私には、その実現はよりハードルが高いものでした。SF小説では自分のクローンを作って育てる話もありますが、今でも人間の生殖にたいする実用化のめどが立っていません。当時の私の考えていた将来の計画は、なんとかして金持ちになって、契約を結ぶことで女性に代理出産をしてもらうことでした。30年前の世界でも充分世の中は保守的でした。

実際には生殖適齢期のうちに金持ちにはなれませんでしたが、ふとしたことで結婚して娘も二人持つことできました。また妻が私と娘たちから離れ、別居するまでには長い時間はかかりませんでした。妻の能力と意思がそもそも結婚生活継続に向いていなかったこともありますが、私の中でジェニー・フィールズの影響が強く作用していたことが最も大きな原因だったと思います。

もしかしたら私は負傷した兵士のなかから生殖相手を探したジェニー・フィールズのように、結婚生活に向かない女性を生殖の相手に求めていたかも知れません。だとすれば結果として私は高校の時の願いを叶えたことになります。男性として生まれ、子供をもち、女性化して出産を除いたほとんどの母親の役につけたのですから。

それは楽な道ではありませんでしたが、今振り返っても他の道はなかったように見えます。

元妻とはもう連絡もとっていませんし、会いたいとも思いません。でも娘たちのなかにふと彼女の特質を見つける時、生殖の相手が彼女でよかったのだと思います。

「ジェニー・フィールズの世界」への2件の返信

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